洗腸療法で排便時間が大幅に短縮し、
生活が随分と楽になりました

新舎先生は、医学部3年生21歳時ラグビー中に脊髄を損傷され、手術後3ヶ月で授業に復帰し、医師になられました。リハビリテーション医師であり脊髄損傷者でもある両方の立場から、ご自身の排便管理のご経験および現状の課題についてお話頂きました。

対談動画:新舎先生×村山医療センター リハビリテーションセンター長 植村修先生
(5:49)

新舎先生と主治医である村山医療センター リハビリテーションセンター長 植村修先生の対談です。
(経肛門的洗腸療法オンラインセミナーから内容一部抜粋)
入院中の排便管理において知っておきたかったこと、排便管理にこれから関わる医療従事者に向けたメッセージなどをお話ししています。

ラグビー中にスクラムで受傷

21歳、大学3年の時にラグビーの試合中にスクラムが崩れて、第5頸椎脱臼骨折と診断され、頸椎前方固定の手術を受けました。障害としては、第7頚髄の完全四肢麻痺となってしまいました。ざっくり言いますと両肩と両肘の力は強いけれども、手首から先が弱くて指がうまく使えないので、ものを握ったり、掴んだりがうまくできません。腹筋と背筋が効かないので、背もたれがないと座れません。両足は全く動かないので立つことも歩くこともできず、移動は車椅子で、自力での排尿排便ができない状態でした。

排便時には冷や汗や鳥肌が立ち血圧が上昇していました

当時医学生であったため、受傷から3ヶ月で授業に復帰しました。
排便については、リハビリテーション医師に指導を受けて、学友が摘便をしてくれました。初めのうちは肛門の出口のところに降りてきている便を一日おきぐらいに掻き出してもらいましたが、そのうち便が直腸に降りてくると、なんとなくゾワゾワして、量が多い時には冷や汗も出るということに気づきました。自律神経過反射によるものだと思います。それに気づいてからは、便意を感じた時に学友に声をかけて摘便をしてもらったので 1日から2日ごとの不定期な排便でした。 当然一回量もまちまちで、たまった便が排便の合間で出てしまうということもしょっちゅうでした。便が降りてくるときに出現する自律神経過反射のその他の症状も徐々に強くなってきました。割れるような拍動性の頭痛、上半身がぐっしょりと濡れるような冷や汗、鳥肌が立って血圧を測ってみると200近くある、そういった状態が続くのですが、便がしっかり出てしまうと、嘘のようにすっと症状が消えるのが不思議でした。

医師になってからの排便管理

医師になってからは、訪問看護にお願いすることにしました。比較的業務が忙しくない曜日に合わせて、週2回夕方に看護師さんに来てもらうことにしました。 はじめは肛門出口に下りてきている便と看護師さんの指が届く便だけを搔き出してもらっていたのですが、完全に出してもらっても、30分から60分後に残っていた便が降りてきて失敗してしまうことが多くなってきました。 そこで後で便が降りてこないように、しっかりと便を出しきろうということで、下腹部をマッサージして、上にある便もおろして出してもらう方法に切り替えました。 看護師さんが私の上に馬乗りのようになって、お腹をグイグイ押します。 そのうち看護師さんの額の汗が私の体の上にぽたぽた垂れてきて、トイレが終わったら看護師さんは汗びっしょりで、私も自律神経過反射による冷や汗で顔面と上半身汗びっしょりになる感じでした。 当時は下剤を服用していなかったこともあり、マッサージしてもらっても便がなかなか降りてこないため、終わるまでに1時間半から2時間ぐらいかかっています。 トイレが終わると毎回ヘトヘトでしたが、当時は若くて体力もあったからか休憩もとらず、車椅子に移乗してそのまま仕事に戻っていました。

受傷10年目の排便訓練

受傷後10年目に脊髄損傷の専門病院の泌尿器科に入院し膀胱瘻を抜いて尿道括約筋を切開してもらいました。この時2ヶ月近く入院していたので、改めて排便訓練をお願いしました。食べてから便として出るまで大体72時間かかるので、中2日空けると良いとのことで週2回、火曜と金曜を排便日にしました。 排便前日の眠前に刺激性下剤を飲んでおいて、当日はトイレに座って排便します。 胃結腸反射と言って胃に食事が入ると腸が動いてくれるので、なるべく朝食後にトイレに座るようにしました。自力ではいきめず便が出ないので座薬を使うのですが、指で座薬を掴めないので座薬挿入器を使って入れる練習をしました。座薬挿入後は10分から15分待って腹部をマッサージをします。しかしマッサージだけで出ることは少なく、看護師による手指での直腸刺激を繰り返す必要があり、直腸まで下りてきても自力では出せないので、結局摘便してもらうといった状態です。退院後もトイレでの排便は続けました。下剤を使うようになったこと、座位を取るようになり、腹圧がかかるようになったことでそれまでよりは便が出始めるまでの時間は早くなりましたが、便意はないので排便終了の判断が難しく、結果的に1時間半から2時間はかかりました。しかし合間での便の失敗は少なくなりました。

骨折をきっかけに座位での排便が困難に

こうしたトイレ座位での摘便と座薬を使った排便を15年間続けましたが、ある日車椅子から誤って滑り落ち、右の下腿を骨折し入院することになりました。入院中に左の股関節周囲に異所性骨化といって、骨が出来て次第にどんどん巨大化してきて股関節が30°曲がった状態で固まってしまいました。結果的に背もたれがないと座ることもできなくなり、食事をすることすら大変で、車椅子への移乗は2人介助になってしまい、トイレに座れなくなったので、再びべット上の排便に戻しました。そのため再び座れるように手術で骨化部分を一部削ってもらいました。その結果屈曲30°で固まっていた股関節が85°まで曲がるようになり、再び座位が取れるようになりました。しかし座位が取れるようになっても骨盤の前傾は困難で、トイレの便座上で座薬を入れたり摘便してもらうのが難しくなってきたため、手術後もベッド上での排便を続けました。前日に刺激性下剤を飲んでおいて、排便当日に訪問看護に来てもらい摘便とマッサージで出してもらう方法です。 寝たままなので腹圧がかけにくいこともあるせいか、さらに排便に時間がかかることも多くなってきました。

洗腸療法との出会い

以前より洗腸療法のことは知っていたのですが、安全性への不安や慣れた排便方法を変えることへの抵抗感からそのままにしていました。しかし年齢的な問題もあるのか、排便後の失神が多くなってきたことや、回復にも時間がかかるようになってきたことから洗腸療法を試してみてもいいかなと考えるようになり、文献報告など情報を集め始めました。残念ながら当時は県内で実施できる施設がなかったのですが、以前より懇意にさせていただいている先生が積極的に取り組んでいらっしゃるのを知り、妻と一緒に外来を受診しご指導いただきました。 最初は少し身構えていたのですが、いざやってみたら、それまでが過酷すぎたためか、拍子抜けするぐらいに楽で、もう終わったのかという感じでした。それまで2時間近くかかっていたのが 40分程度で終わるようになり、洗腸中の自律神経過反射もほとんどありません。 排便後の疲労感もほとんどなく自覚的な起立性低血圧もなく、失神することもなくなりました。 開始して半年になりますが これまでのところは排便の合間に失敗したことはありません。こんなことならもっと早くやればよかったと思っています。

実際に私の洗腸療法のやり方を紹介します

週2回排便をすることにしています。 排便日の朝、食前に上皮機能変容薬の下剤を2錠内服します。トイレまでに充分な水分を摂取するように努めます。ベッド上で左側臥位になって腰の下にシート上のオムツとパットを敷きます。 この時に肛門から出た水が頭の方に上がってこないように、ベッドの頭側を少し上げるようにしています。実は洗腸療法を始めた当初はトイレの便座に座ってやっていたのですが、骨盤が前傾しないためにカテーテルは挿入しづらく、摘便もやりにくく、 また、微温湯が注入中から漏れ出してしまうためか便が効果的に降りてこなかったので、ベッド上ですることにしています。まずは肛門出口まで下りてきている硬便を介助者が指で出します。指を入れた刺激で上の方にある便が降りてくるときは指が届く範囲の便も出し切ります。その後でカテーテルを肛門内に挿入し微温湯400mlをゆっくり注入します。注入後、下腹部を大腸の走行に沿って圧迫して行くと注入した水と共に便が直腸に降りてきます。私の場合は便が直腸膨大部に停滞して自然に排出しない場合が多いので摘便で出してもらいます。終了の判断は経験的にやっており、非常に難しいのですが冷や汗、「ぞくぞく感」があるうちは大概まだ出ている最中です。腹部を圧迫した時にチャプチャプと音がしているときはまだ便が残っていることが多いです。ある程度の量の便が出て指入れた時に肛門が締まってくると大体終了としています。

洗腸療法をしてくれている妻の意見を聞いてみました

前の排便方法よりも 私の体への負担が少なくなったとのことです。これまでの方法よりも早く終わるので排便終了時の本人の消耗具合が違うように見えるとのことです。冷や汗をかかなくなり排便後にぐったりすることもなく回復が早くなったようです。次に行動の自由度が上がったそうです。以前は 週2回の決まった時間に訪問看護師が2名きて 2時間近くかけて排便してもらっていたので、排便日と排便時刻を常に念頭に入れながらスケジュールを組まざるを得ませんでした。しかし今は 妻1人で40分程度で終わるので、排便日と排便時刻をある程度自由に設定できるようになったので外泊がしやすくなり、毎日の食事についても以前ほど気にしなくて済むようになりました。冷や汗が出ない分、着替える必要もありませんし点滴もしなくていいので安心できるようです。
最後に、家族の気持ちも時間も楽になったとのことです。何よりも私が以前よりも楽そうなのが嬉しいようです。

インタビュアー :村山医療センター リハビリテーションセンター長 植村修先生

プロフィール

新舎 規由

55歳/医師/脊髄損傷

防衛医科大学校卒業、在学中の21歳時にラグビーで頚髄を損傷し、C7完全四肢麻痺となる。
現在、回復期リハビリテーション病棟専従医として病院勤務。